いいビジュアルといいコピーライティングがあれば、食の販促はパーフェクト。
20年ほど前に、百貨店ギフトで大ヒットを飛ばした筆者の親戚の言葉だ。
しかし、味を言葉で伝えなければいけない美味しさの表現は、コピーライティングのなかでも、特に難しいもの。
彼女は、食ギフトの素材を集めるために日本中を飛び回り、貪欲に舌を肥やしていた。美味しいものを見つけ出し、ターゲットに伝えるためには見極める力とそれを的確に表現する力が必要だからだ。
筆者も有名洋菓子店を担当して10年以上になった。
まだまだ彼女に追いつけてはいないが、クライアントのオンラインショップを担当するなかで悪戦苦闘しつつ見つけた、ターゲットを落とす美味しさの表現方法についてご紹介していきたい。
食べる人の視点で美味しさを伝える
美味しさを表現しようと力が入りすぎると、独りよがりのコピーになってしまうことがある。
試食できないオンラインショップでターゲットが知りたいのは、自分好みの味なのか?ほんとうに美味しいのか?ということ。
どうしても食べてみたい衝動にかられるかどうか。最初に伝えるべきは、その一点につきる。
そのためには、コピーの主体者は作っている人ではなく、食べる人であるべきだ。ターゲットがその食べ物を口にした瞬間のことを、具体的にイメージさせてあげることが大切なのだ。
たとえば、オンラインショップでよくあるキャッチコピーは、1つめのような表現だ。
1.最高峰パルマ産生ハム。長期熟成14ヶ月!原材料は豚モモ肉、食塩のみ
商品の仕様は分かるが、あまりそそられない。コピーを食べる人の視点に変えてみると、
2.
本場イタリア・パルマの伝統的な塩漬け熟成法で仕上げた、まろやか生ハム。
地元で愛され続ける、長期熟成ならではのとろける旨みと噛むほどに広がる満足感。
生ハムはパルマ産が有名だと知っている人は多い。1.では産地の告知だけで終わっているが、同じ産地の商品を扱う競合も多いはず。もうひとひねり加えることで、商品に対するターゲットの興味をそそりたい。さらに「長期熟成」に関しても、だから○○なのだ、までしっかり伝えたい。
地元民に愛されているとまで言われれば、本場でも支持されているほどなら・・・と、さらに興味がわいてくる。
ただし食に関しては、ぜったいに虚偽の記載があってはならない。内容については、しっかりと事実確認を行うようにしよう。
万人受けする必要はない
同じものを食べても、美味しいと感動する人もいれば、逆にそうでもないと感じる人もいる。
美味しさの感覚というのは、食習慣や育った環境に影響されて、大きく個人差が出る。味覚が鋭い人、鈍感な人がいるのはそういった理由からだ。
ならば、コピーのターゲットが誰なのかをしっかりと把握しなければならない。訴求したい商品を買ってほしい人は、ジャンクフード好きのOLさんか、料理好きで素材にこだわる奥様か。
万人に受けようなどと考えてしまうと、結局誰にも響かないコピーになってしまうかもしれない。
では、美味しいを表現するための手法を4つ紹介していこう。
1.美味しいを「香り」で表現する
私たちが「美味しい」と感じるのは、体のどの部分だろうか?
実は、最も敏感に感じるのは鼻、嗅覚。
風邪をひいて鼻がつまっている時、何を食べても美味しく感じないのは、嗅覚が鈍感になっているからだ。
美味しい香りをたっぷりと吸い込んだときの感動を、イメージできる言葉で表現しよう。
- カカオの濃厚な香りがあふれだす
- 口に入れた途端、ふわりと桜が香る
- 挽き立てコーヒー豆が香り立つ
- 柑橘フルーツの清涼な香りに目をとじる
- 芳醇なラム酒が香って、レーズンがじゅわっ
- ふわりと鼻をくすぐるのは、ヌガーの香ばしさ、モカの誘惑
- かじったときにハフッとくる、クルミの香ばしさ
「美味しい」を伝える表現。食べたくさせる4手法、後半は
2.「食感」も、美味しい表現
美味しさを伝える2つめは、食感。
「こんがり焼いたトースト」と「こんがり焼いた、さくさくトースト」では、後者のほうが具体的にイメージしやすい。
食感をイメージさせる表現(主に擬音)は、過去に自分が食べたことのある美味しい体験を思い出させる。ターゲットは「本当なのだろうか?」と疑いつつも、同時にその商品を自分が食べたときのことを想像してしまう。
- とろ~り肉厚、身はぷりっぷり!
- 外はカリッ。中はとろり。
- バターがとろんととろけて、風味まろやか
- がぶりっ!じゅわ~っと甘い
- 大きな栗がごろごろ入った、噂のマロンパイ
- さくさくパイ生地から、いちじくの果肉がプチプチ!
- ぷるんっ、つるんっ。なめらか食感
- サクサクのあとに、ふわっと口どけて、アーモンド香る
- たっぷりナッツの、ざくざくワイルドな食感
- もっちり、ツルン。その食感がくせになる
3.ターゲットが知っているものに例える
「びっくりするほど甘い」と聞いても、どれほど甘いのか?味覚の感度は人それぞれであるから、あまりピンとこないだろう。それならば、誰もが知っている食べ物や味を引き合いに出して、イメージを共感させることも一つの方法だ。
- はちみつのように甘い蜜がじわっ!
- 料亭の味わいが3分で再現できます
- 生パイナップルを超えた、ジューシーで濃厚な味わい(パイナップルケーキ)
- プリンというより、マンゴーそのもの!(マンゴープリン)
4.見た目を伝えると、美味しい表現に
目隠しして食べ物を食べると、何を食べているかはっきり分からなかったという実験結果もある。
真っ赤に熟したいちごや、きれいに盛り付けられた料亭のお料理など、見た目で楽しむことも美味しさの要素のひとつだ。
- つやつやの旨みがとろける、宝石みたいなリンゴの甘煮
- パイ生地のなかには、黄金色のアーモンドケーキが!
- 包丁を入れるとあふれ出す、豊潤な果汁
- オレンジ色のふくよかな果肉をスプーンですくって
- ほのかなピンク色を感じさせる、桜鯛の刺身
日頃から味覚を磨くことが、美味しい表現のため
美味しさを伝えるコピーは、何回書いても難しい。前述したように、ある意味で非常に個人的な感覚でもあるため、試食して自分の感覚が本当に正しいかどうか不安になるときさえある。
ただ、味覚は努力次第で磨くことができるものだ。事実、筆者は上質素材だけで作られた洋菓子を頻繁に試食するようになり、今まで分からなかった市販の卵や牛乳の雑味や臭みを敏感に感じてしまう。マスコミに取り上げられた行列店をチェックすると、長続きするかどうかの判断もつくほどになった。今までは、美味しいと感じていたものが「?」となってしまったわけだから、少しだけしあわせが減ってしまったのかもしれない(笑)。
繰り返すが、味覚を鋭くするためには、日頃から美味しい素材、美味しい料理を食べる機会を多くもつことに尽きる。運動をして筋肉を鍛えるように、味覚も日々磨くことで感覚を鍛えるわけだ。
美味しさの意味を感じ取る力を持つようになったあなたが、感じたことを4つの手法にそって表現すれば、ターゲットは必ず引き込まれるようになるはずだ。