雑談というと、プライベートの詮索だとか、時間のムダだと考えている人が多いのではないだろうか。でも雑談についてネガティブにとらえている人は、とてももったいないことをしているかもしれない。雑談は仕事はもちろん、人生のあらゆる場面において絶大なチカラを発揮する重要なスキルなのだ。普段あまり意識することのない雑談が持つ潜在能力について、また雑談力をつけるコツについても書いてみたい。
インタビューにおける雑談のチカラ
先日、あるインタビューに同席したときのこと。筆者は普段、自分が直接インタビューすることはあまりないのだが、このときはその場の空気感なども知っておきたかったので、願い出て同席させてもらった。
事前に聞きたいことを考えてきているので、こっちはあれも聞こう、これも聞こうと気がはやっている。
ところがいざインタビューがはじまると、インタビュアーはほんとうに聞きたいことには一切触れない。まずは天気の話や出身地の話など、冗談を交えながら気軽な調子で話していく。いわゆる雑談を十分するのである。
インタビューを受けている人からしたら「こんなんでいいの?」という感じである。でもこの時間があるおかげで、インタビューされる人が身構えることなく、気負わず話せる雰囲気をつくることができたと思う。実際、雑談でひとしきり盛り上がったあとは、和やかな雰囲気のなか、興味深いお話をたっぷりお聞きすることができた。雑談が「本音で話せる空気」をつくったのである。
雑談の大切な役割は、その場の空気をつくること
雑談とは、何ら目的や伝えるべき用件のない、言うなれば中身のない話だ。言ったそばから忘れてしまってもかまわないような内容の話である。そんな話を一生懸命しても何の意味もない、雑談なんて時間のムダだという人もいるだろう。
しかし、世の中の会話すべてが、用件を伝えるだけのものだったらどうだろうか。
たとえば、隣人に回覧板をまわすとき。
「こんにちは、回覧板です」
「はい、どうも」
そしてドアをガチャン。なんと殺伐としたご近所付き合いではないか。こんな町内には住みたくないというものである。ところがこれに雑談を加えてみるとどうだろうか。
「こんにちは、回覧板です。なんだか雨が降りそうな空模様ですね」
「あらほんとうですね。洗濯物をとりこまなくちゃ。部屋干しだとなかなか乾かないから嫌なんですけどね」
「うちもです。明日は晴れるってニュースで言ってましたよ。じゃあまた」
「ありがとう」
そしてドアをガチャン。時間にすれば30秒に満たないが、このほうがよほど後味が良く、心和むやりとりになった。洗濯物の話なんて2人ともどうでもいいのだが、雑談をはさむことで、お互いに打ち解けて話せる雰囲気ができたのである。
職場でも、家庭でも、ママ友付き合いでも、ご近所付き合いでも、人間関係をスムーズにするうえで雑談が絶大な威力を発揮する。まず雑談で地ならしをしてコミュニケーションの土台をつくるイメージだ。土台がないのにいきなりビルを建てようとしてもうまくいかないように、雑談なしでいきなり用件だけを伝えても、思うような結果にはつながりにくいのである。
雑談が人生を豊かにしてくれる
ビジネスにおいて、雑談が果たす役割について考えてみよう。普段、用件をポンと伝えるだけで相手とまったく人間関係をつくれていなかったとしたら、ちょっとしたミスでも対応が違ってくる。普段から雑談を通してコミュニケーションしていれば「しょうがないなあ」で見逃してくれるようなことも、「どうしてくれるんだ!」ということになりがちだ。
ご近所付き合いでも、まったく知らない子供の弾くピアノはただの騒音でしかないが、いつも挨拶してくれるあの子、と顔が思い浮かぶ関係なら、「おお、うまくなってきたな」と寛大な捉え方ができる。ご近所との雑談が騒音クレームのセーフティ―ネットになり、子育てのストレスを減らしてくれる効果があるのだ。
家庭でも、もしもパートナーや家族が用件しか話さないような関係だったら・・・。想像しただけで心が冷え冷えとしてくる。どうでもいい話がワイワイガヤガヤ飛び交う家庭のほうが、幸福度はずっと高くなる。
このように、雑談はさまざまな場面で自分を助けてくれる。大げさに言うと、人生を豊かにしてくれる、縁の下の力持ちなのである。
雑談力をつけるコツ
「そうは言っても、雑談が苦手で・・・」筆者も同じなので、その気持ちはよくわかる。
まずは挨拶だけで終わらせず、プラスアルファのひと言を添えることを心がけたい。天気の話、季節の話などはテッパンである。また、パッと目についた服装や持ち物を褒めるというのもおすすめだ。
褒めるというと「おべんちゃらは言いたくない!」というへそ曲がりもいるかもしれないが、ムリに褒めなくても「そのキーホルダー何ですか?」とか「そのネクタイ、珍しい柄ですね」とか、気づいたことを口に出すだけでいいのだ。雑談においては、話の内容は重要ではなく、オチも結論も必要ない。肩の力を抜いて気軽にできる話が、一番適しているのである。
仕事のメールなども、ここぞのメールは用件だけで終わらせず、ひと言用件とは関係ないトピックを添えてみることをおすすめしたい。ぐっとメールの文章に人間味が出てくるし、読んだ人に良い印象を残す。何をしてもうまくいかなかった仕事が回り出すきっかけになるかもしれない。
相手を目の前にして、あれこれ考えているとうまくいかないというときには、「今日、何か1つ、相手を喜ばせることを言う」ことを自分に課してみるのもいい。こんな覚えやすくて実行しやすいシンプルなスローガンが、明日からの仕事の質を変えてくれるかもしれない。