女性誌の表紙を飾るキャッチコピーほど面白いものはない。
あなたは、通勤電車や営業の移動中、暇つぶしに目で追った中吊り広告のキャッチコピーに、思わず吹き出してしまったことはないだろうか。
筆者は、女性誌の発売時期になると、電車の長い移動がとても心地よい。中吊り広告を端から端まで読み通し、震え上がるようなフレーズを見つけては、その奥深い名文句の意味を噛みしめられるからだ。
しかし、決してただ単に楽しめるだけではない。女性誌のキャッチコピーは、時代を反映し、女性たちがいま期待する雰囲気を反映したものであり、そこから彼女たちのニーズが見て取れるものだ。
この記事では、女性誌のキャッチコピーをパターン別に紹介しながら、女性が好む切り口を解説していく。
アナ雪効果か。そこに冷静さなど存在しない
今の自分の
ままで
モテたい
CanCam 3月号
「できる範囲でいいから、努力はしてくれ!」
CanCamの表紙を見た瞬間、心の中で叫んだのは男性だけではないはずだ。これも、「ありのままで」効果が色濃く影響したということか。
年齢がいくほど、「ありのままで」に反対する人が多いらしい。努力しろと。
ひょっとすると、CanCam読者層は若くして現代に疲れ果ててしまっていて、息切れ状態なのだろうか。
「いつか白馬の王子様願望」を反映したキャッチコピーは、どの雑誌でも目にする鉄板。アナ雪の影響という側面はあるものの、ある意味では「今のままで」も、昔から存在するシンデレラ的「突然幸せが降ってくるかも」願望に基づくものなのかもしれない。
ただ、もう一度だけ言ってもいいだろうか。
「努力はしろ」
失敗してもいいから、とにかく努力はしろ。その失敗をどこかで見ている、あなただけの白馬に乗った王子様は必ずいるから。
28歳、おしゃれも人生も
一生ヒロイン宣言!
SWEET 2月号
女性誌キャッチコピー、ぶっ飛びスタイルの第二弾。
誰がなんと言おうと、「一生ヒロイン」なのだ。
書店のレジで、恥ずかしいのでは?と思ってしまうのは、筆者がオッサンだからだろうか。
しかし、これも「いつか白馬に乗った王子様」願望を具現化した傑作だ。
平積みされている、もしくはコンビニの雑誌棚で、このキャッチコピーを目にした28歳は、ときめいてしまうに違いない。
いろんな場所で、あらゆるシーンで
幸せを
つかめる顔
美的 12月号
一方、メイクの情報誌である「美的」は、剛速球で訴求してきた。「幸せをつかめる顔」ときた。
心のどこかで、シンデレラを夢見ている女性にとっては、とにかくその顔になりたいのだから。とても分かりよいフレーズだ。
自分のプライドのために化粧をする人も多いと思うが、彼女たちはターゲットではない。
きれいにメイクアップすることで幸せをつかめるなら、そうなりたいと思う人がターゲットなのだ。
いつまでも
「夢見る女子」で
いよう!
STORY 2008年12月号
やはりそうだ。
女性はいつまでも「夢見る女子」でいたいのだ。創刊から6年経った2008年のSTORYも、明確なメッセージを発している。
現実的すぎていて冷めている女性よりも、いつまでも目をキラキラさせている人のほうが魅力的に見える。これは普遍的な事実。
ふだんの会話には、あり得ない言葉を繰り出す
この春こそマスターしませんか?
今日も素敵!を確約する
「美人グラデーション」
Precious(プレシャス) 3月号
注目すべきは、「確約」という言葉だ。
メーカーのカタログやWEBサイトで「確約」などと言おうものなら、「何を考えているんだ!」と担当者から大目玉を食らってしまうが、女性誌はそれができてしまうのである。
しかも、このような堅い言葉は彼女たちの日常会話にはまったく登場しないものだ。
しかしそれは、いざ女性誌のキャッチコピーに紛れ込むと、読者にとってこのうえなく魅力的に聞こえる、耳ざわりの良い言葉に激変する。女性誌には縁遠い、ビジネス用語的な堅い言葉をあえて使った編集者に花マルを差し上げたい。
おしゃれも防寒もゆずれない!
”あったか×こなれ”
新セオリー誕生!
oggi 2月号
このキャッチコピーで押さえたいのは、「セオリー」だ。
「○○のセオリー」は女性誌頻出単語のひとつ。しかしこれも、日常会話に登場はしない。
セオリーが何語などということは関係ない。スペルがどうだなどと野暮ったいことも抜きなのだ。
頻出していると、なんとなく文脈から意味は分かるのだから。
oggiの読者をバカにしているわけではない。
感覚的に理解できることは、非常に大切なことなのだ。
真冬の買い足し
総選挙
JJ 2月号
「総選挙」というキーワードを見たとたん、その手があったか!と地団太を踏んだのは筆者だけだろうか。
ここまでJJの読者と縁遠い言葉を使いながらも、感覚的に理解でき、イメージが膨らむキャッチコピーはない。完全に白旗状態、脱帽。筆者には到底書けそうもない。2015年に創刊40周年を迎える老舗ならではの、崇高な作品だ。
2月号発売の時期は、12月末ころ。
ちょうどクリスマスだし、年が明ければすぐにバーゲンが始まる。正月休みにゆったりしながらぱらぱらと誌面を眺めながら作戦を立てる読者の姿が目に浮かぶ。
”朝から元気”は
ママの最優先事項!
VERY 12月号
先に紹介したガチガチのキーワードよりは、若干ゆるめの表現だが、「最優先事項」は日常会話には登場しないし、頭のなかにも存在していない。
しかし、ママが元気にいることは家族にとって非常に喜ばしいことであり、元気なママがテキパキ行動する様子は「最優先事項」の持つニュアンスとしっかり結びつく。
こんなママに育てられた子供たちは、きっといい子になるのだろうなと想像させてくれる秀逸なキャッチコピーだ。
ほとんどオヤジギャグの世界でもOK
おしゃれの
「秋活」はじめよう!
with 10月号
「シューカツ」を「秋活」とは。
新刊発売時期はまだ暑さが残っているが、女性の目はもうすでにおしゃれの季節「秋」に向いている。サブキャッチには、「夏服にはもう、飽きました」とある。
ここでも「飽きた」と「秋」をかけているとしたら、編集者は相当なオヤジギャグ巧者のはずだ。
そこまで分析する読者もいないだろうが、実は女性誌にはオヤジギャグ的ダジャレが頻発する。
納得ずくで雑誌を手にする女性たちは、そこらのオヤジたちよりも腕が立つのかもしれない。
女性誌のキャッチコピーから学ぶ、心をつかむ5つの術、後半は
大げさすぎる表現が好まれる
春の
神アイテム着回し
LOOKBOOK
ViVi 5月号
「神」だけではダメなのだ。「神アイテム」となって初めて意味がある。
コンビニの棚で封されて置かれているViViの誌面を、どうにかして覗きたいと思ってしまわせる名文句だ。
考えてみてほしい。
神のようなゴールデンアイテムとは、どういうものか。何が紹介されているのかワクワクしてこないだろうか。ひょっとしたら自分が見たこともないアイテムだったらどうしよう。ライバルがそれを知り、あなたが知らないままだとしたら。これほど恐ろしい事態は存在しない。
しかも定番の「着まわし」までくっついているのだから、財布の中身を気にしながらも、レジに向かうしか仕方ないではないか。
今こそ!
運命のパンツに
出合う!
oggi 3月号
神アイテムと同様、大げさすぎる表現だが、気になって仕方ない。運命のパンツとは、どれほどのものなのか。
その具体的なシルエットを目にしないまま、寝床につくことなど考えられない。
いまや雑誌は、凋落の一途をたどる。
過激なキャッチコピーで読者を開拓し、その興味を引き続けなければいけないのだ。多少表現が大げさでも、過剰なおまけを付けてでも売ってしまうのだ。
単行本の書籍名も内容にそぐわないものも多く、厳しい批判を聞くことが多くなった。しかし女性誌は身軽なのだ。どうにかしてこの難局を打破したいと勢い込んで買うものではない。だからこそ、
「んなわけないじゃん!」
と、キャッチコピーに軽いツッコミを入れながらも手にする読者が多いのだ。いや、そのほうが世の中オモシロイのだから。
現実的でシッカリ者向けの特集も人気
極めよう!!私らしい
「大人ベーシック」
GINGER 2月号
格差社会を反映しているのか、基本アイテムをきちんとそろえ、アクセントになるアイテムを加えることで毎日の着回しにバリエーションを加えようという特集も定番だ。
そこに「私らしさ」が付加されれば、最強ではないか。
特集の内容は、香里奈や菜々緒、宮田聡子といったファッションモデルたちの基本服を紹介し、敏腕スタイリストも加わり、脱マンネリを解説してくれるというもの。そのためには、やはり基本を押さえておかないと、ということだろう。
分かってはいるつもりでも、気になってしまうのが人の常。企画勝負に持ち込むためのキャッチコピーというべきか。
30歳
「いいものを
少しずつ」
BAILA 7月号
普遍的で、長く使える質の良いモノを持て!とは、おしゃれな人がよく口にすることだ。
当然、良いものだからベーシックなアイテムでも、それなりに高い。だから少しずつでいいのだ。
もうあなたは、量のバリエーションでカバーしてきた20代ではなくなったのだから、そろそろ大人の落ち着いた着こなしの準備もしようぜと、やんわり提案している。
躊躇しながら買った質の良い2万円の白シャツは、ユニクロで売られている、どの白シャツよりも心地よい。たとえ10倍近い価格差があったとしても。
安いものを多くそろえられる現代のアンチテーゼまで、女性誌のキャッチコピーは説いているのだ。
長く着られるおしゃれの
「定番」選びました!
リンネ 3月号
「定番」は女性誌のキャッチコピーに「定番」のキーワードだ。30年前にはこのような言葉を一般人が知る由もなく、店舗を運営していたり、商品を卸す会社のスタッフのみが使う業界用語だった。
こなれた「定番」を説くのではなく、ここでは括弧「○○○」が女性誌のキャッチコピーに多く活用されていることに注目したい。
このパラグラフで紹介している3つのキャッチコピーすべてに括弧が使われている。強調したい言葉、ダジャレ、新しい言いまわしは漏れなく括弧書きとされるのが女性誌風なのだ。
女性の欲求を満たすキャッチコピーの見本
今回紹介した女性誌のキャッチコピー黄金パターンは、注意して中吊り広告をチェックすると、車両に一つは見つけられるものばかりだ。それほど、パターンは固定化されつつある。キーワードや言い回しに変化が見られるものの、本質は変わらない。
あなたも、女性の願望「キレイになりたい、オシャレしたい、やせたい」を満たすキャッチコピーを書かなければ!となったときには、女性誌のキャッチコピーを見本として活用してほしい。