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あなたのコピーがガラリと変わる、誇張表現の3つの作法

あなたのコピーがガラリと変わる、誇張表現の3つの作法

商品の良さを伝えるコピーづくり。他社よりも優れているのは事実なのに、なかなかそれを伝えることができなくて、四苦八苦しているコピー担当者は多いだろう。
「とてもおいしいです」では食べてもらえず、「ぜひ来てください」では来てもらえない現実に、どう対処していけば良いのだろうか。
その答えとなりうる文章表現のテクニックのひとつが、「誇張表現」である。「それほどまでにすごいのなら、食べてみたい」「行ってみたい」と思わせる、コピーを書く際にはなくてはならない存在だ。
「誇張表現」についてお伝えするなかで、参考になりそうな例もなるべく多く挙げてみたい。コピーの書き方で悩める担当者のお役に立てば幸いだ。

買う気のない人に、つい買わせちゃうコピー

「誇張表現」とは、現実ではありえないような、大げさな表現で伝えること。
あ、今な〜んだと思った人、即刻態度を改めていただきたい。ほうほう、と身を乗り出した人、(もしいたとしたらだが)そうそう、その調子。
それほど誇張表現には劇的な効果がある。あなたもその効果を目の当たりにしたことがきっとあるはずだ。

ある雑貨店で見かけた、海苔の商品POP。買う気も必要もなかったのに、コピーを読んだ瞬間、思わず買い物かごに入れてしまった。その文面がこちら。
「ノリの違う海苔。パンチの効いた味と海苔にあるまじきしなりが生み出す食感に、はまる人が続出するご当地海苔。一度食べるともう他の海苔に浮気できません」
むむ、海苔にあるまじきしなり!?浮気できなくなる?海苔好きの筆者としては、これはもう食べるしかない!と思ってしまった。
これが「食感の良さが特徴です」などと書いてあったら、買い物かごに入れることはなかっただろう。
誇張することをバカにしていると、「つい買わせちゃう」コピーを書くことなんてきっと夢のまた夢なのだ。

誇張することで、読み手にぐっと近くなる

「誇張表現って、大げさに書き立てて、読み手をあおることでしょう?いやだな、そんなの」というあなた。平坦なコピーであれば誰からもダメ出しされない代わりに、売れることもない。また、読んでおもしろくも何ともない。買いたい気持ちがあって商品の説明を読みに来てくれた人に対して、そんなものを読ませるのは不親切ではないだろうか。
たとえば、下記のような商品コピーがある。

A.
八ヶ岳山麓に佇む高原リゾートです。豊かな自然と、イタリアの有名建築家による建築デザイン、そして地元八ヶ岳の食文化。お子様連れでもくつろげるファミリーリゾートをコンセプトに、さまざまなアクティビティをご用意しています。

B.
日本を代表するデザインホテルはお洒落な宝箱。大波が寄せるプールやブックス&カフェ、鮮やかな高原イタリアンにスパトリートメントなど極上の休日スタイルが。ファミリーも惹きつけるアクティビティの数々に心躍ります。(星野リゾート)

Aは最初から最後まで平坦で優等生的な表現だが、Bは「宝箱」「極上の」「心躍ります」といった誇張的な表現が入っている。そうすることで文章に強弱がつき、商品もイメージしやすくなり、結果的に読み手にフレンドリーになっている。

他にも、グルメリポートで有名な彦摩呂さんの名言も誇張表現である。
「肉汁のナイアガラや〜」なんて笑ってしまうけれど、とんでもない量の肉汁がじゅわ〜っとあふれている画がすぐに思い浮かぶ。誇張表現には、良さを伝えるだけでなく、ラクに読めてコピーを面白くするというメリットもあるのだ。

エレガントに誇張するための3つの作法

商品を説明するコピーに誇張表現を使うとき、気をつけたいことは3つある。

1つめは、誤解を与えるような誇張はしないこと。
言うまでもないことではあるが事実でないことは書かない。少しの想像や願望が混じってもいけない。事実から発想してオリジナルの表現で書く、これは書き手として最低限のマナーであり、ルールだ。
また、「抜群の」とか「最高の」といった言葉を使う場合には、比較対象となるものがはっきりしていなければならないので気をつけよう。
効果的に、しかも正しく誇張表現をするためには、商品に対する深い知識と愛情が必要不可欠なのだ。

2つめは、誇張するポイントを吟味すること。
誇張表現は正しく用いれば素晴らしい薬だが、誤用すれば毒になる。
ポイントを絞らず全体的に誇張すると、急にうさんくさいコピーになってしまう。その商品の優れた点や、なぜ優れているのか、その理由…。スポットライトを当てたいポイントを絞り、そこに向かってバシッと効かせるようにしたい。

3つめは、決まり文句に頼らないこと。
オリジナルの表現で、できるだけ具体的に誇張することだ。使い古された常套文句では、読み手に「!」と思わせる劇的な効果が得られないからである。

参考のために、良例をいくつか挙げてみたい。

  • もちろん、マグロも申し分なくおいしいのだが、ボラの卵、特に「イル・バカロ」のパスタは、今までの経験を吹き飛ばすぐらいのレベル。
    ——平松玲「ローマでお昼ごはん」より
  • キャップを取ると、磨き込まれた流線型のペン先が現われ、それは見ているだけでも胸が高鳴るほどに美しく、持ち手の裏側にはその曲線によく似合う筆記体で、私のイニシャルYHが彫ってあった。
    ——小川洋子「偶然の祝福」より
  • 今振り返っても、博士が幼い者に向けた愛情の純粋さには、言葉を失う。それはオイラーの公式が不変であるのと同じくらい、永遠の真実である。
    ——小川洋子「博士が愛した数式」より
  • いや、そのトマトは本当においしかったですね。もちろん暑さの盛りで、喉がからからだったということもあるんだろうけど、その自然な香ばしさ、汁気の多さ、さくっとした歯触り、美しい色、どれをとっても、僕がこの生涯で食べた最高のトマトだった。太陽の匂いが芯まで惜しみなくしみ込んでいた。
    ——村上春樹「村上ラヂオ3」より

これらの例は、誇張している部分だけを切り取ると、聞いたことがあるフレーズかもしれない。しかしオリジナリティや具体性は少しも損なわれていない。
なぜかと言えば、対象への観察のきめ細かさ、いかに独自の視点で深く鋭く対象を見ているか、が伝わる文章だからである。
誇張そのものではなく、「誇張されている内容」を大切にすること。そこに気をつければ、大げさに言っても嫌味がなく、受け入れてもらえるコピーができあがる。

誇張の参考表現、例あれこれ

商品の良さを伝えるセールスコピーでは、誇張表現をうまく使いこなせるかどうかが売上を左右するといっても過言ではない。
特に、避けて通れないのが「最高程度を表す誇張」の表現だ。
「うちの商品がすごいことは確かなんだけど、それを伝える言い方が思いつかない…」
そんな担当者に、手っ取り早く参考にしてもらえそうな広告の例を以下に集めてみた。先に挙げた注意点を念頭におきながら、すごさが伝わる誇張表現のヒントにしてほしい。

《誇張表現の例》

  • メルセデスの思想と情熱が創り上げた、ラグジュアリーSUVの最高峰。(メルセデス・ベンツ)
  • 醸造家が夢見た、心が震えるほどにうまいビール。半世紀の時をかけ、ついに。(サントリー)
  • お茶の贅沢を味わい尽くす、至福の風味。(ロイヤルブルーティー)
  • この上ない、幸せ。この上ない、ヱビス。(サッポロビール)
  • 希少な素材から創られるあらゆるパーツは、すべてが熟練の職人の手作業によって丹念に組み立てられます。 (パーカー)
  • 日本旅館では、宿それぞれに、歴史、伝統、技、美意識、創造力と趣向を凝らして、お客様をお迎えします。無駄のない小さな空間を磨き上げ、おもてなしを随所に散りばめ、細部まで創り上げられた、宿それぞれの独自の世界。(星のや東京)
  • 荘厳ともいえる佇まい、その比類なき響き。演奏者が求める最高レベルの音楽表現を約束します。世界中の偉大なピアニストたちや音楽大学から圧倒的な支持を受ける、スタインウェイのフラグシップモデルです。(スタンウェイ・ジャパン)

人を説得するパワーに満ちた表現とは

「誇張表現」は、比喩のテクニックのひとつである。非常に程度の大きいものに、もとの何かをたとえることで、その程度の大きさを実感をもって伝えるのが誇張表現だ。何と何を結びつけるかは、『書き手は何と何を似ていると思うのか』とほぼ等しい。
自分であがいて「コレとコレ、似ている!」と発見する、そのとき生まれる感動には、人を説得するオリジナリティや鮮度、パワーがあふれている。一方、人まねや使い古された表現は、残念ながらそのパワーが極めて弱い。

どこかから誇張表現をとってきて、自分のコピーに当てこんでみても、うまくいかない理由はそこにある。
人を説得するパワーにあふれたコピーを書くためには、まずは愛情を持って商品を観察し、独自の切り口で、人に伝えたい美点を見いだすこと。そしてそこから受けた感動にそっくりな記憶を、とにかく自分の引き出しの中から探し出すことなのだろう。
的確で独創的なたとえは、読んで楽しく、気持ちがいい。そういうコピーに接すると、筆者などは喜んでお財布の紐を弛めてしまうのである。

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