自分の体は自分の意志で動かせるが、決して他人を動かすことはできない。
自分におきかえて考えれば、誰かにムリヤリやりたくもないことをさせられるなんて、たとえそれが良いことであっても、やはり苦痛でしかない。
他人を動かすためにできることはただひとつ、「自ら動きたくなる空気をつくる」こと。
今回は、それを可能にする言葉の力について、企業のキャッチコピーや偉人の名言を例に挙げながら考えてみたい。
人を動かしたければ、動きたくなる空気を作れ
子育てをしていると、つくづく思うこと。それは、「自分以外の人間は、自分の思い通りにはならない」という事実。机にムリヤリ座らせてエンピツを握らせることはできても、本人の意志がなければ一滴たりとも何かを学ばせることはできない。
じゃあどうすればいいのかというと、周囲の人間にできることはただひとつ。「学びたくなる空気を作ること」それに尽きる。
経済活動でも同じことが言える。どれだけすばらしい商品でも、本人が欲しいと思っていないものを売りつけることはできないし、部下をどれだけ叱責したところで、本人の「やるぞ!」という意志がなければパフォーマンスはあがらない。
解決策は「買いたくなる空気」、「頑張りたくなる空気」をつくること、それしかない。
何かをしたくなる空気をつくるのはほんとうに難しいのだけれど、それができる強力な方法の1つが「言葉」だと思っている。
人を動かすために考え抜かれた企業のキャッチコピーとは
たとえばCMなどでよく目にする、企業のキャッチコピー。
消費者向けに自社のメリットをアピールするばかりではなく、会社の方針を社員一人ひとりの心に刻み込み、社風をつくりだす役割もある。自社の目指すところに向かって、人を動かす空気をつくるために、一言一句考え抜かれている。
下記にいくつか例を挙げてみたい。
お、ねだん以上。ニトリ(株式会社ニトリ)
消費者が思わず「おっ?」と驚くような価値を提供しよう、というシンプルな目標。「この商品でこの値段だったら、「おっ?」と驚くだろうか」・・・そう考えれば、誰もがカンタンに、社の方針に沿って正しい判断ができる。単に「より安く提供しよう」と呼びかけるよりも、ずっと分かりやすい。
あしたのために、いまやろう(トヨタ自動車)
地球温暖化問題への取り組みのキャッチコピーだが、仕事に対する姿勢についても当てはまる部分が多いのではないだろうか。いま、すべきことをしようというメッセージには、いつ実現するか分からない遠くの目標に向かって、何となく進んでいけばいいというあいまいさはない。
わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい(丸大食品)
社の姿勢として、「たくましく」と具体的に言い切ったところが迷いがなくていい。これを食べて子供が力強く育つだろうか?常にそんな問いかけをしながら作られた商品なら、良質な栄養がたっぷり含まれているに違いない。
これらに共通して言えることは、短くて分かりやすいこと。難しい言葉は使っていないので、考えなくても頭に入ってくる。そういうセンテンスが心に残り、行動指針となって、社として正しい方向へ導いてくれる。つまり、言葉が人を動かしていくのだ。
多くの人を導いた偉人の名言とは
紹介したいのはマハトマ・ガンディーの名言。非暴力と不服従を信念として、イギリスの植民地だったインドをついに独立へと導いた偉人である。
明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ。
具体的な生死をイメージさせることで、「一日一日を大切に生きなさい、いつも謙虚に学ぶ姿勢を忘れないように・・・」そう口酸っぱく言われるより、ずっと実感を持って味わうことができる。
My life is my message. (私の生涯が私のメッセージです)
ガンディーは、自分の行動、言葉、生き様すべてがメッセージだと言う。言うこととやることが一致していない人が多い(私も人のことは言えませんが・・・)なかで、彼は生涯をかけてひとつのメッセージを伝えようとした、だから人々の心に届いたのではないだろうか。
独立運動を止めさせようと暴力を振るってくる兵士に対して、反撃もせず、逃げもしないためには、相当な恐怖に打ち勝たなければならない。けれど、多くの人がガンディーのメッセージに賛同してこの運動に加わった。これは強制してできることではない。ひとりひとりが自ら、やりたいという強い意志を持たなければできない。人々を「やりたい気持ち」にさせたのは、パワーにあふれたガンディーの言葉たちだったのではないだろうか。
言葉には、行動を変える力がある
人を導き、行動を変えるキャッチコピーとは、明確に断言した「迷いのない言葉」である。
どこへ進めばいいのかがよくわかり、短くてすぐに覚えられ、いつでも思い出せる。
そんなパワーのある言葉は、ほんとうに人の行動を変えていく力を持っている。
日常生活で、上に紹介したような考え抜かれた言葉を発することは少ないが、「なんか良さそう、やってみたい」と思わせる、空気をつくる言葉選びならできそうな気がする。
「勉強しなさい!」ではなく「うわ〜、この本、おもしろい!」だったり、「片付けなさい!」ではなく「片付いたら気持ちいいなあ!」だったり・・・。
ふだん何気なく発している言葉だけれど、「この言葉、良い空気つくるかな?」と考えてから口に出せば、職場でも家庭でも思い通りに人が動いてくれる、といいな(笑)。