質問力を高める:漠然とした質問をしない
「最近、どうですか?」
質問された人が、どう答えていいかわからない代表的なもの。かつて当社のスタッフが、欧州で活躍するスポーツ選手に不用意にこの質問をし、「何がですか?」と切り返されていた。
「あの人、好きじゃない」
スタッフは立腹していたが、「そんな質問するからだ」とたしなめた記憶がある。ただ、切り返したスポーツ選手も少し突っ張っていた時期でもあったので「わざと」な部分があったとは思うのだが。
この例を反面教師として肝に銘じておきたいのは、
質問者は、相手が答えやすい(どう答えたらよいか容易にわかるような)ように聞くべきだということだ。何を答えたらいいか想像はつくが、答えにくい質問もある。あえてそれを聞かないといけないこともある。しかし取材の冒頭から答えにくい質問を浴びせていては、すぐに相手は言葉をつむぐのをやめ、貝のように口を閉ざしてしまう。
質問力を鍛えるということは、会話力を鍛えるということでもある。インタビューという限られた時間、しかも互いに緊張したなかでコミュニケーションを行い、取材のテーマにそったネタ(あるいは解決の糸口)になるような答えを引き出すためには、「平静」が大切だ。
相手が思わず話してしまう、ここまで話してしまった・・・という雰囲気を作るにはお互いの間に心地よさ、平静さを生むことが必要なのだ。
質問力を高める:核心を引き出すステップ
質問を重ねることによって、相手から核心を引き出す。心理学でいうところの「フット・イン・ザ・ドア」を利用する。ステップは次のようなものになる。
- 何も考えずに答えられる質問(YESかNO)
- 1.に対する質問
- 2.に対するより深い質問
- 3.に対するより深い質問
「フット・イン・ザ・ドア」とは、いきなりしてほしい頼みごとをするのではなく、まず小さな頼みごとをして了承されたら、もう少し高いレベルの頼みごとをすると受け入れられやすくなるという理論。
上記のステップも直前の質問に答えてもらえたら、それを掘り下げるということになっている。
ただ、相手のかたくなさや、話の内容によっては上記のステップをいくつか繰り返しながらスパイラル的に核心に踏み込んでいく。ときには、あなたを含めた外部のひとが知りたい「なぜそうできたのか」を、成し遂げた本人さえ気づいていないこともある。
そういったときにこの手法で話を進めると、取材されている本人が取材のなかで頭のなかを整理しながら「体系だてて考えもしなかったノウハウ」に気づくことさえあるのだ。
取材をはじめて間もない人、ろくに下調べもしないで取材に臨んだ人は質問から深堀りする余力がないので、相手から「YESかNO」しか引き出せなかったり、もう一段踏み込んだあたりでネタが尽きてしまう。これでは読み手が前のめりになるコンテンツが書けるわけがない。
質問力を向上させる、たった4つのテクニック(技術編)、後半は
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質問力を高める:広範囲 → 一点集中で、深堀りする
まず幅広い範囲でやさしく答えられる質問をいくつかしていこう。
簡単なやりとりをすることで、コミュニケーションが上手く進んでいると印象付け、相手との距離を縮めることになるからだ。逆に時間がないからといって、核心に迫る答えにくい質問から始めてしまうと、耐えられないような沈黙が続いてしまったりする。このような調子では、「次はどんな質問をしてくるのだろう?」と相手も身構えることになる。
社会部の新聞記者と事件を起こした企業の役員ではないのだから、敵対するような雰囲気を作ってはいけない。
ざっくりと全般的に答えやすい質問を繰り返したら、そのなかから、突っ込んだ話に発展させたい話題に戻ろう。
「先ほど、○○○と言われましたが・・・」
後戻りしてもまったく構わないし、すでに答えた質問なのだから相手も自分の意見を肯定するために、さらに詳しい答えを用意してくれる。
少し趣向の違う質問を繰り出すと、話題が深まりやすい。
広い範囲で質問するのは、別の意味もある。
いくつかかんたんな質問を繰り返すなかで、相手が乗ってくる質問が必ずある。得意な分野だったり、相手のなかで「旬の話題」だったりするものだ。
ここは機を逃さず、突っ込んであげたい。
相手の意をくむことにもなり、短い時間で関係性を高めるうえでも好機と考えるべきだ。ただし、相手の話が長くなりすぎたり、今回話を聞く主旨とずれていたりすることもあるので、バランスを考えて行動しよう。
質問力を高める:自分なりの答えを持っておく
取材する人への準備をしっかり整えていく過程で、「この人に取材すると、こういうコンテンツができるだろうな」という理想形がぼんやりと浮き上がってくるはずだ。この最初の感覚を大事にして、自分なりの答えを持っておこう。
もちろん、ガチガチに固定観念を持ってしまうと「柔軟な対応」の妨げになりかねないので、あくまで「ゆるめ」に整えておく程度にしよう。取材した結果、いい意味で裏切られたのであれば、その「驚き」がいい記憶となり、いいコンテンツとなる。しかも、あなたの驚き様は取材した相手を乗せるきっかけにもなる。もっと面白い話を聞かせてくれるかもしれない。
たとえば、製造メーカーの幹部に質問するとしよう。
あなたが聞き出したいのは、「日本国内生産にこだわり続ける理由」だ。
「日本のものづくりを廃れさせてはいけない」という理由だけでは、経営幹部として感情的すぎるし、ビジネス的でもない。だから、そんな答えは引き出したくないのだ。
製品によっては、コスト的に日本国内生産が難しい状況にもかかわらず、海外へシフトしない理由があるはずだ。
検索してみると、すでに大手や中小でも国内生産で順調に業績を伸ばしている企業の経営幹部のインタビュー記事、コンテンツがすぐに見つかる。家具のカリモクなら、「天然木を十分に乾燥させないと良い家具が作れないから」だし、トヨタなら「品質レベルが高いのは、やはり日本の工場だから」だったりする。精密機器メーカーでは「製品に対する市場からのフィードバックを即座に反映させられるから」といったものもあった。
取材時にこういった例を挙げ、「つまらない答えは許さないぞ」とけん制するのだ。
経営の根幹をなすことには、必ず企業ごとに異なるポリシーがある。ましてやそれが企業の強みにつながっているのなら、その話が絶対的に面白いはずなのだ。
その答え(推定でも十分に対応可能)を中心に、あなたは事前にストーリーを紡いでおこう。
さらに大事なことは、
答えに行き着いたときに「誘導したのではない」という確証を得ておく必要があるということだ。そのためには、何回も違った方向から質問を繰り返す。違った言葉で、同じことを言い換えておこう。取材相手の答えが変わらなければ、あなたの導いた答えは正しかったことになる。もし違和感を覚えたなら、納得するまで質問を繰り返そう。
質問力を高める:キーワードを引き出す
自分なりの答えを持っておくことは必要だ。ただ、思い描いていたことをそのままコンテンツの根幹をなすようなキーワードにも使ってしまうと、単にあなたの創作になってしまうし、リアリティが失われてしまうことになる。
先日、数々のキャンペーン、CMをはじめとする広告戦略を成功させてきた著名なコピーライターの方とお話する機会があったので、「取材の要諦は何ですか?」と尋ねると、「これだと思えるキーワードが飛び出すまで話し続けることかな」という答えが返ってきた。最後の答えは、現場にあると考えておられるからだろうし、相手をリスペクトしているからだとも感じた。
質問力を鍛えることは、
質問する相手から、導き出したい答えを引き出すための準備、心構えだといえる。
取材ばかりに限ることではない。社内で不機嫌な上司から仕事を任されたとき、仕事の詳細を聞き出す方法、その前に上司の機嫌を平常時に戻すテクニックも必要かもしれない。どんな手を使ってでも、得たい答えを引き出す余裕を持っているか、ということでもあろう。
質問力を鍛えることは、人間力を高めることに他ならないのかもしれない。