コラム(ブランディング)
ブランディング 2024年3月13日
デジタル時代のBtoB企業・ブランディング戦略
BtoB企業がブランディングに取り組もうとしたとき念頭に置いておくべきは、ブランディングを行う目的のひとつを「単なる製品やサービスの提供者から、信頼できるパートナーとしての地位を築く」ために行うと明確にしておくということ。それによって、訴求すべきポイント(多くの場合、優位性)や自社の価値の伝え方に差が出てくるということです。
ブランディングを進めるうえで念頭に置いておくべきは、他社にはない優位性、顧客中心のコミュニケーション、一貫性のあるブランド体験の提供、ストーリーの提供、オンラインプレゼンテーションの最適化です。このコラムでは、上記を中心に伝えていきます。
ブランドの差別化
市場での競争は、国内の競合ばかりではなく、海外勢も加勢し、激化するばかり。あらゆる製品やサービスが加速度的にコモディティ化しています。顧客の購買に関してもその状況は同じで、どれを選べば良いのか分かりづらいといった市場にもなっているのです。
おそらく、そのような市場で生き残っていくために、あなたはブランディングについて調べてみようと考えたはずです。ブランディングのオーソドックスな手法のひとつを大上段に振りかぶって言うならば、「独自の価値を提供できること」です。ただ、「独自の価値なんてものが自社にあるのだろうか」と感じたかも知れません。
あなたがイメージした独自の価値とは、「世の中にない唯一無二のもの」でしょう。そこに少し誤解があります。世界的に活動している企業であれば、「世の中にない価値」が必要かもしれません。しかし御社の守備範囲が、地方、県内なのであれば、そのエリア内において、しかも競合が提供できていない価値で十分なのです。
たとえば、競合に比べて顧客サービスのクオリティが高いであるとか、納品までのスピードが早いであるとか、小口配送ができるといった切り口。要は、いま取引してくれている顧客が御社を選んでいる理由のなかから、他社ができていないことを見つければいいのです。
しかもその現在の顧客が御社と取引を続けている理由は、御社内ではあたりまえのことになっているはず。あたりまえのことは、ごくふつうのことなので、今まで顧みることはなかったわけです。しかしそこに、御社が生き残れている理由が隠れているとしたらどうでしょう?
それをきちんと整理して明確にして訴求すれば、現在は競合と取引している顧客でも、御社に魅力を感じてくれる可能性はないでしょうか。
ブランドが確立されていない企業の課題は、①自社と取引している顧客がなぜ御社を選んでいるのか調査できていない、②その結果、自社の価値が明らかになっていない、③全社で共有できていない、④顧客候補に訴求できていないことが挙げられます。これらを推進していかない限り、ブランディングによる商機の拡大を見込むことはできません。
顧客中心のアプローチ
冒頭でお伝えしたように、ブランディングに取り組む目的を顧客と「信頼できるパートナーとしての地位を築く」ために行う
のであれば、考え方を顧客を真ん中に置いたアプローチに変えなければいけません。各部門の利益を優先してしまうような取り組みになっていては、顧客に向けた訴求ができなくなるからです。
とはいえ、今までそのようなことに取り組んだことがなければ、それが会社中心なのか、顧客中心なのかもわからないかもしれません。外部の意見が取り込めるような体制を整えることも検討してください。
顧客のニーズ把握
前項で伝えたように、ブランドが確立されていない企業は、市場調査がなされていないことも多く、御社の持ち味が市場にマッチしているかを確かめる術がありません。現在取引している顧客のニーズが御社の狭い独自性にあったとしても、市場全体としてそうではなかった場合、それ以上取引先を増やせないことになります。ブランディングを進めるうえで、市場ニーズの把握は必須といえます。
ブランド体験
御社との取引をスタートさせると、どんなことになるのかをイメージしてもらうためのアプローチです。顧客対応が早いことが独自価値なのであれば、問い合わせがあったときに営業時間内であれば、すぐ返事をもらえたり、電話をかけたり。業界での経験値を売りにするのであれば、事例紹介だったり。
御社と取引する価値をウェブ上で、リアルで経験できるようにセッティングしておくことが、もっとも有益な働きかけになります。
提供価値の訴求
なぜ既存顧客が自社を選んでいるかを、明確に訴求することが必要です。また、これが自社の生きる道なのだと常に意識し、全社でベクトルを合わせた活動を推進することも忘れてはいけません。担当によって対応の仕方が異なる、回答が違うといった差は、顧客の不信感を招きます。社外に提示する資料によって、表現方法が違っていることも顧客の混乱につながる原因になります。
自社が提供できる顧客のメリットを、自信をもって訴求しましょう。既存客が感じるメリットは、どこかにいる別の顧客候補にとっても必ず価値があることなのです。
一貫性のあるブランド体験
ブランド体験とは、顧客がそのブランドに触れた際、経験できる製品やサービスの品質、価格、デリバリー、コミュニケーション、サポート、視覚的要素といったブランドが持つすべての要素を指します。
既存顧客が御社の製品やサービスを購入する理由として挙げたものがあれば、とくにその要素については注力して強化していくべきでしょう。以下、各要素についてご紹介していきます。
製品やサービスの品質、価格
文字通り、製品やサービスの仕様、競合他社と比べたレベルと価格のバランスは顧客が購入にあたり、重視するポイントです。業界のなかで群を抜いた製品やサービスなのか、標準的な普及品なのかは問題ではありません。あくまで顧客が購入する理由として、挙げたポジションを意識するべきです。
たとえば、普及的なスペックだが長年使っても壊れにくいという評価なのであれば、耐久性を磨いていくことがブランドを伸長させることにおいて、メインテーマとなるでしょう。
デリバリー
製品やサービスの納期です。最近の自動車業界では、発注から半年待ちといったモデルも多くあります。おそらく顧客はこの点については不満を持っていても、半年待ってもそのモデルに乗りたいと考えているわけですから、少なくともデリバリーの良さは問題ではないはずです。
BtoB企業においても、その工作機械でなければ、実現したい成形ができないとなれば、多少の納期の遅さは問題にならないのかもしれません。
コミュニケーション
幅広い範囲でブランドホルダーは顧客とコミュニケーションを行います。広告、製品・サービスのパンフレット、梱包箱、マニュアル、SNS、ウェブサイト、メール、サービスステーションなど・・・。そのいずれの場面でも、ブランドとして一貫したメッセージを発することが必要です。
たとえば、インターネットのプロバイダが広告で「快適なネット環境を提供します」と訴求しているにもかかわらず、他社からのプロバイダ切り替えを申し込んだところ、応対した窓口が面倒そうな案内を行っていれば、顧客になろうとしている人は不信感から途中で電話を切ってしまうかもしれません。
サポート
人は助けてもらったことをかんたんに忘れる生き物ではありません。困ったからサポート窓口に駆け込んでいるわけですから、そこでわかりやすく丁寧に導いてもらえれば、「もしものとき」を考えると、この会社の製品やサービスを継続して使用するほうがいいと判断します。とくに使用方法が複雑な製品やサービスなら、なおさらです。
このように、顧客と接するいわゆるコンタクトポイントで、ブランドの一貫したメッセージ、印象を提供することが既存客、顧客候補に対して、大きな意味を持ちます。どの部門においても、自社のブランドがなぜ顧客から支持されているのか、これを持続し、新規客に拡大させていくためには、どういったコミュニケーションを採るべきなのかを全社で実行することが肝要です。
ストーリーテリング
人は感情を持つ生き物ですので、物語に強く惹かれます。
自社がなぜこの事業に参入したのか、歴史的な経緯、困難を乗り越えて培ってきたノウハウ、画期的な開発秘話などなど。それらのストーリーが現在の製品やサービスにつながっていることは、購買者が御社に信頼を寄せるのに大きな理由になります。
購買者は理念ともいうべき御社の根っこに共感し、その結果生まれた方法論を支持、考え尽くされた製品仕様に納得するという階段を駆け上げってくれるように、じっくりコンテンツを練っていきましょう。
デジタルプレゼンスの最適化
BtoB企業だからこそ、オンラインでの存在感を強化する必要があります。強力な営業集団を抱えるキーエンスのようなBtoB企業でない限り、かんたんに市場のあらゆる場面で存在をアピールすることは難しいのが実情です。また、購買企業の担当者も新しい購買先をネットで探すことも多くなっていますので、ネット上で存在感を増すことが非常に大切な戦略でもあるのです。
そのためには、購買担当者や技術者などが参考になるコンテンツを提供することで信頼を得たり、SEO施策を強化し、検索上位を狙う取り組みを実施していくことは、BtoB企業にとっても有益な新規営業になります。
また、自社の得意な分野について、豊富なコンテンツを揃えることは、SEO的にも有利になるとともに、その分野に顧客候補を集められるという効果も生まれます。
BtoB企業こそ、ブランディングに取り組むべき
2022年の中小企業庁調査によると、BtoB企業のブランドの構築、維持に向けた取り組みを行っている企業は全体の34%。B2C企業の52.5%には及ばないものの、かなりの割合でブランディングに取り組んでいることがわかります。
BtoB企業であっても、顧客の信頼を勝ち取るために、新規客開拓のために、独自性のあるブランドとして自社を訴求しようと考えているということです。一般的な印象としては、ブランデイングはBtoC企業が熱心に取り組むべきものと考えがちですが、分野が違っても顧客から支持をされることにおいては、基本的なものは変わりません。
ぜひ、一刻も早くブランディングに取り組み、自社ならではの優位性の掘り起こし、適切な訴求に取り組み、長期的な関係の構築を目指してください。