コラム(WEB制作のポイント)
WEB制作のポイント 2015年2月17日
ブライダル音響に学ぶ、6つの演出テクニック
WEB制作会社においてはもちろん、クライアント側でも動画を扱う機会が増えている。動画制作で決して忘れてはいけないのが音響効果、そうBGMだ。
この記事では、プロの映像クリエーターではない企業のWEB担当者が動画をプロデュースし、撮影から編集までを一貫して行う際に、観る人を魅了してしまうプロ並みの演出ができるようになるヒミツをブライダルの音響効果に求める。
披露宴のシーン別に音響効果を解き明かしていくことで、音響演出のコツが理解できるだろう。
今やプロ並みの画質で撮影編集ができる機材やソフトも容易に手に入れられるが、ブライダルの元音響エンジニアの筆者としては、もう少し考慮して欲しいのが動画のBGMなのだ。
音響効果の使い方ひとつで、あなたのストーリー、制作意図は目を見張るほど際だち、商品イメージはもっと記憶に残るものにできる。
ブライダルは、ある意味で人の心を揺さぶる究極の演出が仕込まれる場だ。この音響演出のテクニックを応用すれば、あなたが創造する動画がネット上で話題になることは間違いない。
1.BGMで主役のイメージが書き換えられる(シーン:新郎新婦入場)
披露宴の始まり。いよいよ主役が登場するシーン。会場は暗転し、威風堂々とした大きなドアに出席者が注目する。
そして司会者が声高らかにブライダルセレモニーのオープニングを宣言すると、勢いよくドアは開かれ、スポットライトが新郎新婦を輝かしく照らし出す。BGMは大きめに流れ、音響効果が日常とは違う特別なイベント感を演出する。この時、BGMはどんな効果をもたらしているのだろう。
あなたは、披露宴で友人のことを「コイツ、こんないい奴だっけ?」と感じたことはないだろうか。
ふだん無愛想な新郎でも、ディズニーの名曲とともに登場するだけで強くやさしく愛に溢れた男に思えてくる。これは、新郎に対するこれまでのイメージを、ファンシーで明るい音楽が瞬間的に書き換えてしまうからだ。
つまり、新郎がまるでディズニー映画の王子様のように見えてしまうのだ。これまであなたのなかに築きあげられた新郎に対する印象は、音響効果だけで大きく変換されてしまったことになる。
BGM選曲で考慮すべきは、主役を出席者にどう思わせたいかだ。
格好良さや若さを演出したければ、吉田兄弟の三味線サウンド、真面目さや誠実さなら、アメイジング・グレース。ただし、ギャップが大きすぎると逆に既存のイメージを強調させてしまうこともあるので、注意が必要だ。
2.最も出席者の注意を引く音響効果は、意外にも「無音」(シーン:祝辞・乾杯の挨拶)
「あのドレス、めっちゃかわいくない?」
「新郎、超イケメン!うらやましー!」
などと女子たちが話している間に、目の前のグラスにシャンパンが注がれる。
そして控えめに流れていたBGMは、スっとフェードアウト。久しぶりに会った同級生たちとケラケラと絶好調に笑い転げていた女子たちも静かになり、一瞬にして会場全体が次の進行を意識する・・・。
これも音響効果のなせるワザ。「無音」によって注意を引くテクニックだ。
人は、周囲から音がなくなると、その状況を把握しようと周囲をチェックする。
おしゃべりな女子たちさえ、自分の声が目立つことに気付き、話をやめて集中するものを探し始めるのだ。学校の授業中に先生が突然黙りこみ、生徒全員が静まるまで沈黙するのも同じテクニックだ。
賑やかさや一定の音に慣れたあとの突然の無音は、最も不自然で落ち着かない状態であり、そのタイミングで司会者に名前を呼ばれた新郎の上司に、会場が否応なく注目してしまう。
主賓のスピーチが始まると、出席者はしばらく注意を向けている。
しかし「無音」の演出で作りだした注意は30秒ほど持てば良い方だ。ここからは主賓の腕次第。トータル3分のスピーチなら、3回は笑いをとってほしい。
主賓のスピーチ終了後に「カンパイ!」のとともに楽しいBGMで会場を賑やかにする音響効果を出せば、披露宴の歓談タイムはぐっと盛り上がる。
「無音」演出から元気に立ち上がるBGMは、会場に解放感を提供するのだ。
3.聞こえているが、意識されない音響効果がベスト(シーン:歓談・余興)
披露宴会場がガヤガヤと盛り上がっている間、BGMはほとんど意識されない。しかし、わずかに集中力が途切れたり、肩の力を抜いたりした瞬間、突然BGMは耳に入ってくる。
こういったときに出席者を必要以上に落ち着かせないための音響効果が、軽めの音量で流すBGMだ。
聴こえなくても意識させ過ぎても、出席者を疲れさせてしまう。ごく自然な存在感で新郎新婦や会場から意識をそらさないブライダル演出ができればベストだ。
WEB動画に置き換えれば、音響効果が耳触りな動画など5秒と観ていられない。しかし逆に、一定の音量で淡々と流れているだけのBGMだと退屈さを感じてしまう。
BGMの音量は、ストーリーに集中しやすいように都度調整されるべきだ。
映像やストーリーにとってバランス感のある演出を心がけよう。ユーザー目線に立ち返って動画を観ることによって、音響効果をどのようにすべきか、予測がつけられるようになる。
4.心地良い「余韻」でシーンに引き込む(シーン:キャンドルサービス)
明かりを落とした会場で、新郎新婦が各テーブルの中心に置かれたキャンドルに火を点けていく。とても幻想的で美しい光景だ。
キャンドルサービスでの音響効果のポイントは、雰囲気という「波」を掴むこと、そして「余韻」である。
その場で起こる波に逆らわず、点火されたキャンドルの火が燃え上がるのに合わせて音量をゆっくりあげて拍手を誘う。
拍手が収まるにつれ音量を元に戻していくのだが、拍手より2秒ほど長く音を残すことで、段階的にふわふわと落ち着いていく余韻を演出できる。
うまく決まれば出席者をぐっと惹き込め、会場の一体感がさらに増すのだ。
動画でも、シーンの切り替えでサッとBGMを替えるのと、フェードアウトしながら替えるのとでは全く違った効果が生まれる。
フェードアウトなら音量を抑えていく時間を伸ばしたり、次の音までの無音を長めに入れたりすると、さらなる惹き込み効果を狙える。癒しのイメージを演出するときにも使えるテクニックだ。
5.期待感には、何が何でも「サビ」で応えるのがブライダル(シーン:ケーキ入刀)
ボリュームを抑えて少しずつ期待感を煽ったあと、「初めてのおふたりの共同作業。
ウェディングケーキにご入刀です!!」と、司会者は高らかに叫ぶ。
にこやかな新郎新婦がナイフをおろす瞬間に、大きめのボリュームで曲のサビが流れる。鉄板のブライダル音響演出、最大の見せ場のひとつだ。
出席者の「待ってました!」に応えるには、奇をてらってはいけない。
期待通りの展開をみせることで、出席者と会場の演出の間に信頼関係が生まれるからだ。王道ともいえる演出で信頼関係を築くことができれば、安心して次からのシーンを存分に楽しむことができるようになる。
さらに、突然のキスコール。
新郎新婦がキスした瞬間には、ホイットニー・ヒューストンの名曲「I will always love you」をあてがおう。会場いっぱいに「エンダ~~~~」とホイットニーが歌い上げるサビから流せばブライダルイベント前半のヤマ場はいただきだ。
出席者からの突然のリクエストに、音響エンジニアたちは顔面蒼白になりながらも、ホイットニーを探しまくっているのである。
6.ブライダル音響のキモ。「音量」の演出で感動をさらに膨らませる(シーン:手紙・花束贈呈)
涙なしには聞けない感動的な新婦からご両親への手紙披露のあと、両家のご両親に花束を贈呈すれば、披露宴はクライマックスを迎える。
こういう静かなシーンでは繊細な音響効果が求められる。ブライダルの音響効果で最も重要な要素は、ここでもやはり音量だ。
手紙を読むシーンなので、歌詞のないピアノやオルゴールの選曲が定番だ。
手紙を読んでいるときに大きな音は必要ないから、かすかに聴こえるくらいの音量で流せば良いのだが、花嫁が感激に声を詰まらせ、無音になる瞬間があると、会場全体が急に冷静になってしまうリスクがある。意識させない程度の音量は必要だ。
そして、つまりながら手紙を読み終えるあたりで音量を上げて拍手を誘い、少しずつ会場のボルテージを上げていく。
花束を渡すべく新婦が両親に近づいていくごとに、徐々にボリュームを上げていく。あざとらしさが出ないよう、出席者に気付かれないように繊細にやることがポイントだ。
「おっ、BGMの音量上げたな」
と周囲に意識させてしまっては、すべてが台無しになる。
新郎新婦、両家のご両親、親類縁者一同、友人知人すべてが気づかないうちに音量が上がり、会場全体の感動を膨らませるサポートをする。これがブライダル音響による究極の演出だ。
主役の新婦の出番が終われば、再び「無音」で空気を切り替える。
新郎や父上の挨拶は、わざわざ若い二人のために集まっていただいた出席者に深いお礼を伝える場なので、それがしっかりと伝わるように一切の音を排除するのだ。
まとめ:ブライダルの音響効果は、記憶に残ってはいけない
ブライダルの音響は、「バックグラウンドミュージック」なのだから、主役になってはいけない。引き立てるべき新郎新婦と、伝えたいストーリーを支え、雰囲気を盛り上げることが使命だ。
結婚披露宴の思い出が「あのときのBGM演出」などとなるのは二流。「感動的な披露宴だった」と思い出させるのがブライダル音響の一流選手だ。
WEB動画においても、これは同じではないだろうか。
ついつい派手な音響効果を使いたくなってしまうが、最も伝えるべきストーリーから意識を逸らせてしまうような演出をしないように気をつけよう。音響効果は気付かれないところで、映像の感動を10倍にも20倍にもできる超一流の脇役なのだ。
この記事で紹介した音響効果に関するテクニックが、あなたの制作した動画の名脇役になれば幸いだ。